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パンチャーとスインガーの違い(1)

 1回目はパンチャータイプ、2回目はスインガータイプについてお話しました。その中で「パンチャータイプでは前脚着地時にタスキラインが伸張されており、スインガータイプではタスキラインが伸張されていない。そのため、パンチャータイプでは前脚着地後からタスキラインの筋収縮が始まるが、スインガータイプでは、停止慣性力を利用した外旋によってタスキラインが伸張される。」と言う事をお話ししました。では、このような違いは何故生じるのでしょうか。それについて説明するためには、パンチャータイプとスインガータイプの基本的なメカニズムに対する理解が必要になります。

 まず、スインガータイプの場合、根本的に自力で腕を振ろうとするのでは無く、下半身の体重移動と回転運動を利用して、腕が自然に振られるような動作になります。そのため、技術論としては腕の脱力を強調する傾向が有り、最後の所で指先が走る感覚等の表現が良く聞かれます。

 スインガータイプの重心移動は、後ろ脚に体重を乗せた結果として生じる地面反力を利用します。
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 大腿骨の骨頭部が図のようにカーブしているので、後ろ脚からの地面反力は骨盤を打者方向に押し出します。
 
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 もちろん、反動を付けて重心移動を始める投手もいますが、理想的には反動では無く後ろ脚からの地面反力を利用します。
 そして、骨盤が移動して行くと、下図でAとBの距離が開き、重心移動は加速して行きます。
 
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 この重心移動を受け止めて、後ろ脚股関節は割れます。このメカニズムはここでは図で簡潔にイメージで掴んでください。(本筋からそれるので)
 
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 下図は清水直行投手の後ろ脚股関節が割れるシーンです。
 
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 並進運動による後ろ脚股関節の割れ(斎藤和己投手)
 
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 股関節の割れとは、屈曲、外転、外旋の複合運動です。ですから内転筋や、伸展筋である大殿筋やハムストリングスが引き伸ばされます。(下図 左から内転筋 ハムストリングス 大殿筋)
 
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 引き伸ばされた筋肉は、その直後に反射(伸張反射)によって収縮し、股関節の絞り動作(伸展、内旋、内転)を起こそうとしますが、並進運動中は、体重が負荷となって中々、絞り動作に転じる事は出来ません。股関節の絞り動作とは、要するに蹴る動作で、走っている時に地面を蹴る動作と同じです。「蹴る」動作は体重の重みを押し返して始めて「蹴る」動作として成り立ちます。体重がのしかかったままだと蹴る動作になりません。並進運動中は、この状態になるわけです。伸張性収縮ですね。

 そして、その後、体重が後ろ脚から着地する前脚に移り変わる際に、負荷が外れる事によって後ろ脚は絞り動作に転じます。

 体重を受け止めた股関節の割れ
 
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 負荷が抜けて後ろ脚の股関節が絞り動作を起こす状態
 
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 後ろ脚股関節が割れた後、着地直前から絞りに転じます。この後ろ脚股関節の絞り動作は骨盤の回転のキッカケとなります。(藤川球児投手)
 
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 ダルビッシュ•有投手のフォームでは股関節の割れと絞りが鮮明に見て取れます。
 
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 並進運動が終わると、その勢いで回転運動と、上半身を前に倒す動きが起こり、その運動を利用して投球腕を引っ張ります。そして体幹部の回転が減速期に入ると、移動慣性力を利用して投球腕を前に放り出します。これが、スインガータイプのメカニズムです。

 では、次にパンチャータイプについて見て行きましょう。

 パンチャータイプとスインガータイプの根本的な違いは「力を発揮する方法」に有ります。スインガータイプの場合、手の力を抜いておいて、体重移動と回転運動を先行させて、その脱力した腕が「振られる」状態を作ります。
 これに対して、パンチャータイプでは、後ろ脚に体重を乗せた所から、下半身動作を先行させずに、一気に瞬発的に力を発揮して、いきなりボールを加速します。しかし、その結果、以下に説明しますが、実際には下半身が先行して力を発揮するのですが、大切な点は、同じように下半身が先行して力を発揮すると言っても、そのメカニズムやその後の動作がパンチャータイプとスインガータイプでは全く異なると言う点です。

 このとき「後ろ脚に体重を乗せて、そこから力を発揮するポジション」を始動ポジションと言いますが、始動ポジションにはいくつかのパターンが見られます。

1)前脚を挙げた所。ベースボール•パフォーマンスラボで主に採用している方法。実際には有名な投手には中々見られません。
 
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2)前脚を降ろした所。
 
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3)振りかぶる昔式(昔式についてはまた別の機会にお話します。)の場合、3コマ目が始動ポジションになります。松坂投手や佐藤由規投手などはこのタイプです。
 
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 さて、それではこれらの始動ポジションから力を発揮しようとすると何が起きるのでしょうか。それはサイレント•ピリオドと呼ばれる現象です。サイレント•ピリオドとは「一気に瞬発的に大きな力を発揮しようとすると、その直前に該当する筋肉に生じる、一瞬の筋肉の弛緩状態」の事です。
 このサイレント•ピリオドをスポーツ科学の実験で計測する際には、例えば膝を軽く曲げた姿勢で立っていてもらい、そこから光等の合図に反応して反動を付けずに瞬発的にジャンプしてもらいます。被験者には合図に反応して素早く飛んでもらうように言います。すると、脚のジャンプするための筋肉からは下図のような筋電図が採取されるのです。
 
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 この図の青い部分がサイレントピリオドです。このサイレントピリオドは意識して力を抜く脱力とは全く異質なもので、意識としてはむしろ力を発揮すると言うのが有るのです。その結果として無意識下で力を発揮する直前に筋肉が弛緩すると言う事です。例えば、腕相撲や陸上のスタートで合図の後に、体が反応して動き出す方向に力を発揮するまでに僅かなタイムラグが有りますね。あのタイムラグがサイレントピリオドだと思って良いと思います。(このサイレント•ピリオドは、例えば右腕でパンチを打つ時の左腕からも計測される事が知られています。)

 以下は私の仮説であると同時に、皆さんの実践を観察する事によって私の中では実証された事なのですが、上半身でサイレントピリオドが発生すると、下半身では同時に力が発揮されます。恐らく、人間の体は筋肉で支えないと姿勢が保持出来ないので、一部の筋肉が弛緩すると、他の筋肉が力を発揮する性質が有るのだと思います。サイレンとピリオドは左右対称に発生するので、それに対応する下半身の力の発揮も左右対称に起きると考えられます。(これはバッティングのオートマチックステップを観察すると明確に解ります。)

 したがいまして、始動の瞬間は下図のようになるわけです。赤の模様は瞬発的に力を発揮する時の感覚を表現しています。下半身のオレンジは力の発揮で、上半身の青はサイレントピリオドの弛緩を表現しています。
 
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 この時、発揮される下半身の力とは、股関節を伸展させて地面を押すものになります。(これは恐らくこの筋収縮の意味が姿勢保持に由来しているからだと思いますが、厳密には確認しようが無いのが実情です。)
 例えば下図のようにあらかじめ手をトップの位置に置いて、そこから下半身動作を先行させずに、瞬発的に力を発揮して投げる(ボールを標的に瞬間移動させるイメージ)と言う実験をラボでは行っています。(この動作は基本的に担ぎ投げですので、繰り返さないでください。また、急に力を入れると危険なので充分にアップしてください。必ずしも100パーセントの力で行う必要はありません。)
 
 この実験では上半身でサイレントピリオドが起きると同時に下半身が力を発揮して、重心移動がオートマチックに起こり、その反作用で手が後方に引かれ、テークバックもオートマチックに起こります。この事を確認してもらうための実験です。
 
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 ※)ただし、実際に投げる時の始動ポジションはボールをグラブの中に入れたセットポジションである事が大切です。こうしないとパンチャータイプの場合、担ぎ投げやアーム式になってしまう可能性が高いからです。

 
 さて、ここで一つ、パンチャータイプとスインガータイプの動作面での違いが明確になりました。スインガータイプでは並進運動を利用して、後ろ脚の筋肉を引き伸ばしておいてから、その反射による収縮を起こします。しかし一方、パンチャータイプの場合、並進運動を利用しないで、後ろ脚に体重を乗せた所から、いきなり後ろ脚の筋肉が収縮して地面を押します。地面を押す動作とは股関節伸展ですから、股関節の絞り動作です。

 ただし、パンチャータイプでも基本的には、いきなり股関節が絞り動作を起こすわけでは有りません。下図のように並進運動の初期は体重が負荷となって、まず股関節が割れます。
 
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 つまり、筋肉としては絞ろうとして力を発揮しているのに、実際には負荷に負けて割れているわけですね。伸張性収縮の状態です。腕相撲で負けている状態と同じです。これが、スインガータイプの場合、まず「力を発揮していない後ろ脚が、ただ負荷によって割れるフェーズ」が有ります。パンチャータイプではこれが無いのです。

 始動ポジションからいきなり股関節伸展で地面を押す力を発揮しているのですから、並進運動における後ろ脚の動きがスインガータイプと異なります。写真はディッキー•ゴンザレス投手です。いきなり後ろ脚で蹴ってる感じが良く出ていますね。先に挙げましたダルビッシュ投手のフォームと比較すると違いがよくわかります。この違いは日本人と外国人の違いではありません。
 
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 スインガータイプの場合、後ろ脚の筋肉の働きは大雑把に下図のように期間分け出来ます。(1)〜(2)は、股関節が並進運動と体の負荷によって割れている状態で、筋肉は伸張しています。(2)〜(3)は筋肉が伸張された反射(伸張反射)で収縮しながらも、まだまだ体重の負荷によって絞り動作に転じる事が出来ないシーンです。これは腕相撲で負けている状態と同じで伸張性収縮を意味します。(3)〜(4)は後ろ脚の上から体重が抜けていき、筋肉が短縮性収縮に転じて、股関節が絞り動作を起こすシーンです。腕相撲で負けている状態から急に相手の力が弱くなり、勢い余って一気に押し倒す状態ですね。この股関節の絞り動作で一気に骨盤の回転が加速されます。
 つまり(1)〜(2)単なる伸張(2)〜(3)伸張性収縮(3)〜(4)短縮性収縮 と言うフェーズ分けが可能になるのです。これがスインガータイプの特徴です。後ろ脚股関節の絞り動作は主に着地後の骨盤の回転に使われますから、先のディッキー•ゴンザレス投手のように重心移動の最中に後ろ脚で蹴っている感じがあまりしないのです。
 
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 一方パンチャータイプの場合は下図のようになります。(1)を始動ポジションとします。
 
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 パンチャータイプには前述しましたように「単なる伸張」のシーンが無く、始動ポジションからいきなり後ろ脚の筋肉が股関節を絞ろうとします。しかし、重心移動の初期には体重の負荷に負けて一度は割れるわけです。このフェーズが(1)〜(2)で、伸張性収縮のシーンです。スインガータイプの図とは色で対応させています。
 次に(2)〜(3)では、既に短縮性収縮が始まって、実際に股関節が絞られています。スインガータイプより一足飛びに股関節の絞りが始まるわけです。
 腕相撲で負けている時をイメージすると解りやすいのですが、伸張性収縮では限界までの力が発揮されます。パンチャータイプの後ろ脚でも一度、伸張性収縮のフェーズを経る事によって、より後ろ脚の筋肉に大きな力を発揮させる事が可能になります。力が大きいので、(2)〜(3)くらいの体重のかかり方だと、簡単に短縮性収縮に転じる事が出来るのでしょう。(3)〜(4)も当然、その続きで、短縮性収縮による絞り動作です。基本的な原理として後ろ脚股関節の絞り動作は前脚着地の時点で終わり、着地後に股関節の絞り動作を利用して骨盤を回転させるシーンが無いのがパンチャータイプの特徴です。
 つまり(1)〜(2)が伸張性収縮で、その後は(2)〜(3)〜(4)と短縮性収縮のシーンが続きます。これがパンチャータイプの後ろ脚動作のフェーズ分けです。

 下図はスインガータイプのダルビッシュ投手のフォームです。この段階でまだ後ろ脚が絞られていません。内転筋が伸張性収縮しているシーンです。図の(3)に相当します。パンチャータイプであれば、このくらいの体重のかかり方だと後ろ脚の筋肉は既に短縮性収縮に転じているので、股関節は絞られているはずです。
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 一方、下図はパンチャータイプのペドロ•マルティネス投手です。ダルビッシュ投手と同じくらいの前足の浮き加減ですが、後ろ脚股関節が絞られています。
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 下図もパンチャータイプの尾崎行雄投手です。やはりマルティネス投手同様、後ろ脚は絞られており、この時点で如何にも蹴ってる雰囲気が出ています。
 
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 簡単に言うと、まず割れて、次にその反射で絞るスインガータイプより、いきなり絞る力を発揮する(実際には一度割れるにしても)パンチャータイプの方が、後ろ脚股関節の絞り動作が始まるのが早いのです。

 ではここで、重心移動の時の後ろ脚の動作をパンチャータイプとスインガータイプで比較してみましょう。(ただし、実際にはスインガータイプで後ろ脚の膝が内に入るのが早い投手がいたりして、これは良く無い動作なのですが、そういった意味で、分類するのは一筋縄でいかない部分が有ります。)

 ダルビッシュ•有投手(スインガータイプ)
 
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 武田久投手(スインガータイプ)
 
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 大原慎司投手(パンチャータイプ)
 
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 比嘉幹貴投手(パンチャータイプ)
 
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 長くなりましたが、結論として、後ろ脚股関節の絞り動作が始まるのが、パンチャータイプの方が早いと言う事です。では、その結果、どのような違いが起きるのでしょうか。
 
 写真のような構えから、後ろ脚股関節を絞ると、骨盤が回転すると同時に投球腕が外旋します。骨盤が回転するのは解りやすいですが、外旋は何故起きるのでしょうか。
 
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 下図の動作ですね。
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 まず、股関節伸展に伴う、脊柱の反りと連動して、外旋が起きる事が考えられます。
 
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 次に、骨盤が回転しようとするので、水平に張り出した肘も円運動を描こうとし、その結果、反対に手が後ろへ動き、丁度、水平内転と連動する外旋(パンチャータイプの投球腕動作で述べました。)と同じメカニズムで外旋が起きる事が考えられます。
 
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 いずれにしても、パンチャータイプでは並進運動のシーンで後ろ脚股関節の絞り動作に連動して、投球腕の外旋が起きるわけです。

 ディッキー•ゴンザレス投手
 
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 大原慎司投手
 
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 松坂大輔投手
 
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 結論から言いますと、この後ろ脚股関節の絞り動作と投球腕の外旋によって、タスキラインが引き伸ばされます。そのメカニズムは幾通りかの説明が可能ですが、まず下図のように後ろ肩の外旋は垂直面回転ですが、水平面で見ると、骨盤の回転と逆行する成分を持ち得る事が解ります。
 
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 このため、後ろ脚股関節の絞り(による骨盤の回転)と投球腕の外旋によって、上半身と下半身を逆に捻る「上下逆回転捻り」が起こります。
 
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 上下逆回転捻りが起きると、タスキラインは引き伸ばされます。
 
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 さらに肩関節が内旋していると大胸筋(タスキラインの一部)が緩みますが、
 
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 外旋すると引き伸ばされます。
 
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 ですから、外旋動作そのものが、タスキラインを引き伸ばす役割を持ちます。タスキラインには外腹斜筋や内腹斜筋と言った腹筋群も含まれますが、外旋動作は前述しましたように脊柱の反りを伴うので、外旋によってこれら腹斜筋群も引き伸ばされるでしょう。
 
 図(タスキラインを構成する主な筋肉)
 
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 このように、パンチャータイプでは、並進運動の中で後ろ脚股関節の絞りと、投球腕の外旋の連動を利用して、タスキラインを引き伸ばします。ですから、前脚着地時には既にタスキラインが引き伸ばされており、着地後の投球腕のスイングにタスキラインの筋収縮を利用出来るのです。ここで松坂投手のフォームを見てみましょう。
 
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 ダルビッシュ投手とは共に日本を代表する右腕ですが、ダルビッシュ投手がスインガータイプなのに対し、松坂投手はパンチャータイプです。フォームを見ても、ダルビッシュ投手に比べて、後ろ脚股関節の絞り動作と投球腕の外旋が早期に始まり、前脚着地時には既に投球腕の前腕部が空を指すトップの形になっている事が解ります。この形が出来ていると、タスキラインが引き伸ばされるので、着地後に、その収縮を利用したパンチャータイプの腕の振りになるのです。

 松坂投手とダルビッシュ投手の前脚着地のシーンを比較すると、ダルビッシュ投手は前足が完全着地した時点で、松坂投手の完全着地前よりも投球腕が内旋しています。これだけ内旋していると、前脚着地時に大胸筋は引き伸ばされていないでしょう。
 
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 下図はWBCのキューバ代表で注目されたアロルディス•チャップマン投手(パンチャー)です。やはり前脚着地時点で既に投球腕がトップの位置に入っており、2コマ目ではタスキラインが伸張性収縮、つまり筋肉の力で腕を前に振ろうとしながらも、慣性によって後方に残されている状態が見て取れます。
 
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 西口投手もパンチャーですから、チャップマン投手と同じ感じですね。2コマ目では「フンッ」と言う声が聞こえてきそうな感じです。そういう感じがパンチャータイプの感じなのです。
 
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 以上のように、パンチャータイプでは後ろ脚股関節の絞り動作を重心移動の中で行い、上下逆回転捻りを引き起こして、タスキラインを伸張するのに使います。

 それでは、スインガータイプの後ろ脚股関節の絞り動作には、どのような意味が有り、またそのときに何が起きるのでしょうか。

 まず、下図で説明しましたように、スインガータイプでは後ろ脚股関節が筋肉の短縮性収縮によって絞り動作を起こすタイミングがパンチャータイプより遅く、前脚が着地する直前あたりの体重が後ろ脚から抜けて行くシーンでようやく始まります。
 
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 結論から言いますと、スインガータイプでは後ろ脚股関節の絞り動作を着地の瞬間から始まる「回転運動」に利用します。パンチャータイプが上下逆回転捻りに利用するのとは違います。下の写真はダルビッシュ投手が着地の瞬間から後ろ脚股関節の絞り動作によって骨盤の回転を加速しているシーンです。
 
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 藤川球児投手
 
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 写真のように着地後の後ろ脚股関節の絞り動作を利用して骨盤を回転させます。ゆっくりした動きで実験してみると解りますが、投球腕はやはり外旋します。スインガータイプの投球腕外旋も、慣性だけでは無く、後ろ脚股関節の絞り動作との連動でも説明出来るようです。
 
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 このようなスインガータイプの動作の場合はどうなるかと言うと、まず前脚着地時にタスキラインが引き伸ばされていません。そこから腰が回転して行くとき、慣性でボールが後方に残ろうとする事で、腰と肩の間に捻りが入る事でタスキラインは引き伸ばされて行きます。
 しかし、この慣性でボールが後方に残されて投球腕が外旋していく中で、大胸筋の停止部が背面に回り込んで、いわゆる「かわす」状態が起きてしまうので、タスキラインを「内転+水平内転」で腕を前に振る動作に使えず(使わず)、純粋な回旋筋として使う事になるのです。このあたりの説明は前回の「スインガータイプの投球腕動作」で詳しくお話しています。
 
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 簡単に振り返っておきますと、大胸筋の停止部が背面に回り込む事で、水平外転による大胸筋の伸張を避ける「かわし」が起き、
 
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 タスキラインを「内転+水平内転」(下図)には使わず、
 
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 下図のように回旋筋として使うわけです。
 
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by basepafolabo | 2011-09-23 22:01 | ピッチング理論 コラム  

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