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体幹部操作(3)

 体幹部操作で、股関節の割れが腕に連動して行く様を記述してきました。しかし体幹部操作の真髄は股関節の割れが手足の指にまで連動して行く所にあります。まさに体の中心から末節までが連動して一体化する。これが体幹部操作なのです。この連動をストレッチを通して体に覚え込ませる事が構えを作る第一歩です。もちろん、それに加えてバットを振る事が重要で、バットを実際に振らないと良い構えは出来てきません。

 ではまず手の連動から見て行きましょう。

 股関節の割れが肩甲骨の上方回転を引き起こし、肩関節の内旋を起こすのでしたが、そうすると腕全体が内向きに捻られるので前腕部も回内します。

 
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 そこで写真は前腕部を立てた状態で回外、回内を行ったものです。

 回内
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 回外
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 前腕部は回内すると、手首が背屈し、回外すると手首が掌屈する性質が有ります。

 手首の背屈
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 手首の掌屈
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 さらによく見ると、前腕部を回内して手首が背屈した時、写真のように親指側にシワが出来ている事が解ります。これは手首が親指側に側屈しているためで、これを手首の撓屈(とうくつ)と言います。
 
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 手首の親指側への側屈(撓屈)
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 手首の小指側への側屈(尺屈)
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 前腕部を回内、回外させる実験で以下の事を確認してください。

 前腕部を回内すると、手首の背屈と撓屈が起きる。
 前腕部を回外すると、手首の掌屈と尺屈が起きる。

 股関節を割ると、前腕部が回内しますから、体幹部操作では「回内」「背屈」「撓屈」の連動を使います。そして、この「回内」「背屈」「撓屈」の3つが揃った状態が良いグリップで、これら3つの条件が揃ったグリップを「コックが効いたグリップ」と呼ぶ事にします。

 前腕が回内し、手首が背屈&撓屈した「コックの効いた」グリップとは下の写真のようなグリップです。
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 このようなグリップを体幹部操作における股関節の割りによって導きだす事が重要で、この形を手だけで作ろうとしてしまうと、肘から先の筋肉が緊張して、スイングも硬くなってしまいます。

 そこで、体幹部操作1のストレッチを太いマジックペンを握って行ってみましょう。バットだと頭にぶつかってしまうので、太いマジックが最適です。このストレッチの中で「前腕の回内」「手首の背屈」「手首の撓屈」が起きる事を確認してください。これがコックの効いたグリップです。
 
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 カブレラ選手も股関節を割る事によって胸椎が後湾し、前腕が回内した結果、グリップにコックがかかっています。
 
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 ここで「グリップのコック」と言う言葉の意味について確認しておきます。グリップのコックとはどちらかと言うとゴルフの技術論で良く使われる言葉で、当然野球にも当てはまるのですが、ゴルフの方が技術理論が盛んなので、実際にはグリップのコックで検索するとゴルフのページが出てきます。

 グリップをコックするとはテークバックでクラブを振り上げる時に、手首が撓屈する動作の事を言います。
 
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 道具で物を打つとき、手首を撓屈から尺屈させて使う事は明白です。
 
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 この時、撓屈させる動作をコックと言い、尺屈させる動作をアンコックと言うわけです。

 ですから、当然、野球の場合でもトップの時点ではグリップはコックされています。ただ、特にパンチャータイプにおいては構えた時点でコックされている事が重要であり、そのコックとは単に撓屈しているだけでは無く「前腕部の回内によって、撓屈、背屈が起きた状態」であると言う事です。

 そして、これら条件が満たされた状態が写真のようなグリップであると言う事です。
 
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 そして、このグリップが「股関節を割る→骨盤が前傾する→腰椎が前湾する→胸椎が後湾する→肩甲骨が外転する→肩甲骨が上方回転する→肩関節が内旋する→前腕が回内する→手首が背屈&撓屈する」と言う体幹部操作の連動によって形成されるのです。

 しかし、体幹部操作によるグリップの真髄はこれだけでは有りません。マジックペンを使った実験を行った際、何か手でマジックをロックするような感覚が得られなかったでしょうか。筋肉でギュッと握るのでは無く、関節でロックするような感覚です。実は、この感覚は「腱固定効果」と呼ばれる身体機能による結果なのです。

 写真左のように手首を背屈させてダランと力を抜いた状態から、手の力は抜いたまま右のように背屈させると、指が自然に「クッ」と曲がる事が解ると思います。

 
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 これは手首を背屈させる事によって前腕部から手の平を通る腱が引き伸ばされて、その張力が増す事によって起きる現象です。腱は筋肉の両端の部分ですが、腱をゴムだと考えると解りやすいでしょう。
 
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 これが腱固定効果(テノデーシス•アクション)です。つまり、手首が背屈すると、腱固定効果によって、指が曲がると言う事です。ちなみに、鳥が木の上で眠る事が出来るのは、腱固定効果を利用しているためです。
 この、腱固定効果を利用出来ると手に力を入れなくても、関節の力でバットを握る事が出来、安定しながら力の抜けたグリップを作る事が出来るのです。ただ単に力の抜けたフニャフニャのグリップでも無ければ、コックは効いて安定しているけれどガチガチに力んだグリップでも無く、安定しながらも力の抜けた理想的なグリップを作る事が出来ると言うわけです。

 手首が背屈する事で、指が自然に曲がって関節の力でバットをロック出来る。。これがグリップがしっくり来ると言う状態です。

 もう一度始めから体幹部操作の連動を振り返ってみると「股関節を割る→骨盤が前傾する→腰椎が前湾する→胸椎が後湾する→肩甲骨が外転する→肩甲骨が上方回転する→肩関節が内旋する→前腕が回内する→手首が背屈&撓屈する→腱固定効果で指が曲がり、バットをロックする事が出来る」と言う一連の連動が起きるわけで、股関節を割った事による連動が指先まで伝播すると言う事が解ります。

 因に、グリップがコックされると、バットがインサイドアウトに鋭く出せそうな感じがしますね。これについても、このシリーズの中でいずれ書きたいと思います。

 
 では次に足の連動についてです。脚(レッグ)では無く、足(フット)です。

 大きなテーマとして良く言われる「足で地面を掴む」と言う感覚がありますが、これについても体幹部操作で説明がつきます。既にパンチャータイプのオートマチックステップに習熟している人は、後ろ脚股関節を割ったとき後ろ足で地面を掴むような感覚を感じていると思います。
 
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 もちろん意識的に足に力を入れて地面を掴もうとするのは良く有りませんが、股関節を割ると自然と足のグリップ力が高まるのは感じられると思います。

 何故、このようになるのでしょうか。

 まず、股関節を割ると膝が自然に曲がりますが、膝には自動回旋機能と呼ばれる機能が有り、屈曲するとき下腿部が回内し、伸展するとき下腿部が回外する性質が有ります。
 
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 そして、この下腿部の回内、回外と足関節が連動します。

 座ったままでも下腿部を回内、回外すると解るのですが、

 下腿部を回内すると、足関節の底屈と内反が連動して起こります。
 
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 一方、下腿部を回外すると、足関節の背屈と外反が連動して起こります。
 
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 ところで、手も足も人間の祖先である四足獣にとっては前脚、後ろ脚で同じように脚であり、指がついていると言う意味で基本的に似ています。
 では手を握って物を掴むときどうするでしょうか。下図のように手の中心に向かって力を集中させるようにするはずです。
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 同じように、足で地面を掴むときも、下図のように足の中心に向かって力を集中するような状態になっているのです。もちろん、バッティングの構えでは足でタオルを掴むときのようにギューッと力を入れているわけでは有りませんが、自然にそういう力が発揮されていると言うわけです。
 
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 下腿部を回内して足関節が底屈&内反を起こすと、上の図のように足全体で中心に向かって、手を握るように力を発揮する事が感じられるはずです。

 つまり、股関節を割る事によって膝が曲がると、下腿部が膝の自動回旋機能によって回内し、足関節の底屈&内反が起きるので、足裏で物を掴むような状態になるのです。これが足で地面を掴むと言われる感覚の正体です。

 そしてまた、足関節が底屈&内反を起こすと、足のアーチが強調され、いわゆる扁平足と逆の甲高の状態になることが解ります。
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 足には拇指球、小指球、踵の3つの体重支持点が有り、それらを連結する3本のアーチが形成されています。そして、この3点で体重を支える構造になっています。
 
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 このアーチが出来ると、土踏まずと、そうでない部分のメリハリが付きますが、その方が足の機能性が高まるのは間違い無いでしょう。
 土踏まずとそれ以外の部分のメリハリがしっかり出来ると、両足で立った時に、丁度、両足の真ん中を囲むような体重の支え方になります。
 
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 これは、下図のような構造を意味しますから、体の重みを支える上では安定感が得られる合理的な状態なのです。
 
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 体幹部操作1のストレッチによって足裏に下図のような構造が体感出来たら、体幹部操作の連動が足の裏、指にまで行き届いている事を意味します。そして、そのためには膝が自動回旋によって回内している必要が有りますから、爪先は開きすぎない方が良いのです。爪先を大きく開くと図のような感覚は得られません。
 
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 このように、体幹部操作1は上半身では股関節の割れがグリップのコックにまで連動しますが、下半身では「股関節の割れ→膝の屈曲→下腿部の回内→足関節の底屈&内反→足裏のアーチの形成によって安定感が得られると同時に地面を掴む感覚が得られる」と言う連動になるのです。
 ここまでの連動が体得出来れば、体幹部操作1を理解出来た事になります。しかし、それはあくまでも「理解した」と言う事であって「極めた」と言う事ではありません。極めるためには長い時間かけて、継続的に取り組む必要が有ります。時には毎日コツコツ、時には集中的に行う事によって、時間をかければかけただけの発見が有ると思います。私もまだ道の途中です。

 以上で体幹部操作1の「基本」については全てお話しましたが、最後に連動のメカニズムを上半身と下半身に分けてまとめておきます。

 上半身の連動

 「股関節を割る→骨盤が前傾する→腰椎が前湾する→胸椎が後湾する→肩甲骨が外転する→肩甲骨が上方回転する→肩関節が内旋する→前腕部が回内する→手首が背屈&撓屈する(グリップのコック)→腱固定効果で指が曲がる→関節のロックでバットを固定する」

 下半身の連動

 「股関節を割る→膝が曲がる→膝の自動回旋により下腿部が回内する→足関節が底屈&内反する→足裏のアーチの形成によって安定感が得られると同時に地面を掴む感覚が得られる」

 以上です。

by basepafolabo | 2011-10-07 20:47 | 体幹部操作(構えの作り方)  

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